思い出の場所、新しい挑戦と出会い

思い出の場所

私がインスタレーションに出会ったのは5年前、山奥の村の集落で行われていたアートイベント、上畠アートだった。

 

その時は、アートをどう楽しんだらいいのかと頭を悩ましていたけれど、イベントを重ねるごとにアートは身近になり、その面白さを知ることができた。

 

アーティストさんのガラス玉のようにキラキラとした目にはこの場所はどんな風に映っているのだろうか。

この作品を手がけたアーティストさんはインスタレーションは絵本1ページ目のような存在だと話してくれる。

 

一見再生するはずもないものに真っ赤な熱い血が通い、長い年月をかけてゆっくりと治癒されていく。

 

変わりゆく環境の中では、前と同じようには、元どおりには決してならない。そんなことは分かっている。

 

それでも、ちゃんと血が通って循環している。そうやって、この場所はきっと少しずつ生まれ変わっている。

 

 

アーティストさんたちがこの場所で表現することにチャレンジしたいと思うように、私もこの場所で、今年で最後となる上畠アートで私たち夫婦の結婚式を挙げたいと思った。

新しい挑戦と出会い

今回の結婚式にあたり装飾品の製作をこの土地に移り住むことを選んだ帽子職人のご夫婦に依頼させて頂いた。

 

旦那さんとは1年前に移住されてきたばかりの頃に地区の草刈りで少しお話したことがあった。ただ、それ以来はあまりお話できていなかったけれど、二つ返事で製作を引き受けて頂けた。

 

 

昨年生まれたばかりのお子さんもいて、村での生活は暮らすのに大変なことも多いだろうけれど、ご夫婦の雰囲気はとても柔らかい。村の保育園に通うお兄ちゃんはお友達とも仲良しで、ひとりでちゃんと大人しくもできるから驚いた。私たちの結婚式も楽しみにしてくれていたそうだ。

結婚式の会場となったのは雲が湧くのが見えるほど山の上にある神秘的な空間。製作にあたりその場所に祀られている水の妖精をイメージされたとのことだった。

その土地の植物でできた髪飾り。

剣をモチーフに切りたてのしゃきっとしたすすきでつくられたブーケ。

帽子好きな妻が普段使いもできるようにと考えられたシルクとフタコブラクダの毛皮の帽子。

 

 

装飾のひとつひとつが繊細でまるで生きているようで、それらを身につけた妻の姿にどこか神秘的な雰囲気を感じた。

帽子を被るかどうかを直前まで試行錯誤していたが、結果としてセットしてもらったヘアが予想よりアップ目で帽子は被るのではなく髪飾りの様にしてつけることになった。

 

帽子と髪飾りを組み合わせたその姿がおそらくご夫婦がイメージされていた完成形に近かったようだった。

 

村の美容師さんにお願いしたヘアセットが結果的に装飾の完成形に繋がったのだと思うと、何だかとても不思議な気持ちになった。

 

 

直前まで降り続いていた雨は挙式を前にピタリと止み、ブーケを見てアイデアが湧いてきたすすきの花道も屋外でやることができた。

挙式には、東京から駆けつけたメンバーやアーティストさん達、親族の他にも日頃から地区の行事でお世話になっている上畠地区の方々も参加された。区長さんにはお祝いのご挨拶を頂いた。

 

 

結婚式を終えた翌日、妻とふたりで区長さんのお宅を訪ねるとご夫婦で出迎えてくださった。「良い式でしたね。」と言ってもらえたのが嬉しかった。

その後に、地区の公民館でお世話になった人への御礼も兼ねてアートイベントの打ち上げを行った。帽子職人のご家族にも参加してもらい、アーティストのみなさんにもご紹介することができた。

 

奥さまから打ち上げの差し入れとして皆に作って来て頂いた揚げ物はあっという間になくなっていた。妻にはプレゼントとしてハンドメイドのリップクリームを頂いた。奥さまの優しい笑顔に妻も打ち解けたようでふたりで楽しそうに会話をしていた。

 

別れ際に旦那さんから「今回の結婚式の製作は自分たちにとっても新しい挑戦で、とても刺激的で楽しかったです。ありがとうございました。また一緒に何かやりましょう。」と声をかけて頂けた。

 

普段はご夫婦一緒に製作されることはないらしく、子育てに忙しい中でもふたりで製作に取り組めたことも良かったそうだ。

ご夫婦とは今回の件で、私だけでなく私たち夫婦と繋がることができたような気がする。妻は帽子を滞在中も、帰り道も嬉しそうに被っては私に見せびらかし、家に帰ってからも早速、一番目立つ所に飾っていた。

 

 

私たち夫婦は都会で暮らしながら、村に通っている。その村は懐かしくて、それでいて新しい。人口が減っても、限界集落と呼ばれても、熱い血の通った繋がりが循環し、ゆっくりと生まれ変わっている。

2016.9.17

こちらの記事では全てをご紹介することはできませんでしたが、結婚式・披露宴の開催にあたっては数えきれない程多くの方に力を貸して頂きました。会場の使用・撮影許可も頂けたことでこうして記録を残すことができました。ご協力頂いた皆様、本当にありがとうございました。

利賀村ファン 山田将太郎

シェアボタン

いいね!